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2009年7月 3日

マイナス・ゼロ(広瀬正)


1945年(昭和20年)の東京大空襲の日、少年だった浜田は隣に住む先生から死の直前に奇妙なことを頼まれる。「18年後の今日、ここに来てほしい。」彼はその約束を果たしに、18年後再びその場所を訪れる。そこで浜田が目にしたものは・・・。

先生との約束を果たすため、18年後に再びその場所を訪れた浜田。彼が目にしたのは、空襲の日に行方不明となった伊沢啓子を乗せたタイムマシンだった。ここから彼の奇妙な体験が始まる。彼自身がタイムマシンに乗り込んで過去に行ったのはいいけれど、さまざまなアクシデントが・・・。
タイムマシン物は映画やテレビドラマなどでいろいろ見たが、重要なのはやはり結末ではないかと思う。過去、現在、未来に起こるできごとをどう収束させるのか?それが作品の良し悪しを決めるポイントだと思う。この作品ではそれがきちっと描かれていた。バラバラのピースがラストで、あるべき場所にきちんとはめ込まれていく爽快感があった。作者の緻密な計算がうかがえる。それにしてもこの結末・・・。考えれば考えるほど頭が混乱してくる。だが、それもまた楽し♪

ゆこりん : 19:11 | コメント (0) | 作者別・・ひ他

2009年6月29日

虚無への供物(中井英夫)


氷沼家は呪われているのか?
昭和29年の洞爺丸沈没で両親を失った氷沼蒼司・紅司兄弟とそのいとこである藍司。心の傷も癒えぬうちにさらなる悲劇が襲う。紅司が密室状態の風呂場で謎の死を遂げ、さらに叔父の橙次郎も!事故か殺人か?歌手の久生や、久生の婚約者俊夫、久生の友人亜利夫らの推理が始まる。はたして犯人にたどり着けるのか?

作者が10年近くの歳月を費やした1200枚の大作は、かなり読み応えがあった。氷沼家にまつわる因縁話は横溝正史の作品を思い出させるが、そこまでどろどろとしたものではなかった。よくある密室殺人を緻密な描写で書き込み、独特の世界観に仕上ている。その作者の情熱が、読んでいると行間からひしひしと伝わってきた。人物描写もそれぞれの個性がよく描かれていて、生き生きとした印象を読み手に与える。内容は全体的に興味深いものなのだが、とにかく長い。長すぎる。延々と続く会話や詳細な説明の描写は、読み手をうんざりとさせるほどだ。もう少し簡潔明瞭に書いた方が作品として読み手を挽きつけるのではないだろうか・・・。
完全なミステリーとは言えないが、それなりに楽しめる作品だと思う。

ゆこりん : 22:16 | コメント (0) | 作者別・・な

2009年6月15日

訪問者(恩田陸)


3年前、朝霞千沙子が湖で溺死した。そして、千沙子に育てられた峠昌彦も事故で急死する。千沙子が住んでいた館に集まった朝霞一族は、峠昌彦の遺言の内容に驚いた。集まった中に昌彦の父親はいるのか?千沙子や昌彦の死の真相は?「訪問者に気をつけろ」この言葉の意味するものは・・・?

次々と現れる訪問者。そして、陸の孤島となってしまった館。限られた空間と限定された登場人物たちの行動や会話から、千沙子と昌彦の死の真相が徐々に明らかになっていく。そして、昌彦の父親が誰かということも・・・。
本を読むと、いつもなら頭の中で映画を観るように映像が出来上がっていくのだが、この作品はまるで舞台を観ているような感覚になっていった。個性豊かな登場人物たちが鋭い洞察力で謎のベールを一枚ずつはがしていく。真相が分かってしまえば「なんだ。そんなことか。」と思ってしまうかもしれないけれど、話の展開や盛り上げ方は実に巧妙だ。「訪問者」というタイトルを見た段階から、読者はもう作者に惑わされている。読後も不思議な余韻を読み手に残してくれる。恩田陸らしい作品だった。

ゆこりん : 19:37 | コメント (2) | 作者別・・おんだりく

2009年6月12日

誘拐(五十嵐貴久)


韓国との条約締結を間近に控えた日、首相の孫娘が誘拐された。犯人の要求は、日韓友好条約締結の中止と「活動資金」の用意だった。まったく正体をつかめない犯人に振り回されるばかりの警察。誘拐された少女は無事戻ることができるのか?犯人の真の狙いは何なのか?行き着く先に見えるものは・・・。

周到に計画された誘拐。痕跡を残すことなく、警察の裏をかくように行動する犯人。条約締結の中止が真の狙いなのか?身代金の受け渡し方法は?警察との行き詰るような駆け引きや刻一刻と変化する状況に、ページをめくる手が止まらなかった。後半の展開も、誘拐事件が単なる誘拐事件ではなくなり、意外性を感じた。「公」を取るか「私」を取るか?孫娘を誘拐された首相がとった行動にも考えさせられるものがあった。細かい部分で気になる点がいくつかあったが、全体的には面白く読ませることに徹した出来になっていると思う。ひとつ残念だったのは、犯人の正体があっさり分かってしまったことだ。もう少し工夫がほしかったと思うが、これは作者の意図したことだったのか?それでも、この作品が面白いことに変わりはない。とにかく、とても楽しめる作品だった。

ゆこりん : 14:46 | コメント (0) | 作者別・・いがらしたかひさ

2009年6月 8日

私立探偵・麻生龍太郎(柴田よしき)


山内練というひとりの男の運命を狂わせたという罪の意識が、麻生に警察を辞めさせた・・・。探偵となった麻生は、練のことを気遣いながらも依頼や事件に忙殺される日々を過ごす。練は、麻生が自分と同じ世界に引きとめようとすればするほど、麻生とは異なる世界で生きようとする・・・。「聖なる黒夜」のその後を描いた作品。

「聖なる黒夜」のインパクトがあまりにも強烈だったので、この作品を読んだときは少々不満を感じた。この作品の中に練はあまり登場してこない。麻生と練の物語というよりは、やはりタイトルどおり私立探偵としての麻生の物語だと思う。個人的には、麻生と練の係わり合いや、練が麻生とは違う世界で生きようと決心するまでの心情を読みたかった。ここからRIKOシリーズにつながっていくのだから、麻生と練の関係を重点においてほしかったと思う。シリーズの中の1作品として扱うには物足りないし、単独作品として扱うのも中途半端な気がする。期待して読んだのだが、「読後満足」にはならなくて残念だった。

ゆこりん : 18:28 | コメント (2) | 作者別・・しばたよしき