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2008年07月22日

空の中(有川浩)


国産飛行機のテスト飛行での事故。自衛隊機の事故。このふたつに関連はあるのか?調査が進められていく。一方、父の操縦する自衛隊機が事故を起こしたことを知らず、息子の斉木瞬は父が通るであろう区域の海岸にいた。そしてそこで不思議な物体を見つける。飛行機事故と不思議な物体。何の関係もないように見えたふたつがつながるとき、人々は今まで体験したことのない危機に見舞われる・・・。

突然、自分にとって大切な、かけがえのない人を喪ってしまったら?心を襲うのはすさまじい悲しみと、喪失感と、そして後悔なのではないだろうか?「悔やんでも悔やみきれない」その思いが遺された者の心に血を流させる。作者の、苦悩する登場人物たちの描き方がとてもいい。彼らの心の動きが読み手にも伝わってくる。また、「白鯨」と名づけられた謎の生物本体と、白鯨と人間との仲介役の高巳の会話が絶妙だった。しだいに言葉を覚え人間という生き物を理解していく過程はとてもよく描かれていて、読んでいてどんどん物語に引き込まれていった。「人類と白鯨に共存の道はあるのか?」憂いを抱いてラストへ・・・。
「姿かたちは違っても、心と心は通じ合える。」
読後そんな思いを味わえた。余韻が残る心温まる作品だった。

ゆこりん : 17:32 | コメント (2) | トラックバック (0) | 作者別・・あ他

2008年07月20日

愛しの座敷わらし(荻原浩)


東京から田舎へ引っ越すことになった高橋家。一家の主人晃一が選んだ家は古民家!!その古民家で起こる不思議なできごとの数々は、座敷わらしのしわざだった・・・。バラバラになりかけた高橋家は座敷わらしとのふれあいを通して、いつしか家族の絆を取り戻していく。

読んでいる途中で、必要以上の描写にダラダラとした感じを抱いたが、それを補って余りある内容だった。家族の心がバラバラになりかけていたときに現れた座敷わらし。晃一・史子夫妻、娘の梓美、息子の智也、そして晃一の母澄代。それぞれの抱える問題は、いつしか和らいでいく。座敷わらしは福をもたらすと言われているが、福をもたらすのではなく、身近にありすぎて気づかない幸福に気づかせてくれる存在なのではないかと思う。高橋家の人たちもそれに気づいたとき、再び家族の絆を取り戻す。「私たちは、大切なものを犠牲にしたリ、失くしたり、忘れたりしながら毎日の生活を送っている。」そのことを強く感じずにはいられない。座敷わらしの生まれたいきさつにはホロリとさせられたが、全体的にほのぼのとした心が温まる作品になっている。ラストの1行は絶妙!輝いている♪

ゆこりん : 15:59 | コメント (0) | トラックバック (0) | 作者別・・おぎわらひろし

2008年07月18日

蟹工船・党生活者(小林多喜二)


厳寒のオホーツク海。そこで操業する蟹工船の中には、過酷な労働を強いられる乗員の姿があった。人間扱いされない彼らは、自分の権利のため、自分の命のため、団結して立ち上がるが・・・。「蟹工船」「党生活者」の2作品を収録。

「人として」の権利。それをあからさまに主張できる時代ではなかった。虐げられた労働者の権利を声高に叫ぼうとすれば、その先に待っているのは己の破滅だ。だが多喜二は叫んだ。作品を通して。読んでいて多喜二の情熱を痛いほど感じる。決して洗練された文章ではない。だが、自分の思いを込めるというより自分の思いをたたきつけるようにして書かれた作品は、読み手の心を強く揺さぶる。作品を通して、もっともっと多喜二の叫びを聞いてみたかった。彼の最期はあまりにも衝撃的だった。

小樽は、小林多喜二ゆかりの地だ。「小林多喜二文学碑」をたずねてみた。これを機会に、彼の作品をもっと読んでみたいと思う。



ゆこりん : 14:59 | コメント (0) | トラックバック (0) | 作者別・・こ

2008年07月14日

さよなら妖精(米澤穂信)


1991年の春、守屋はある一人の少女に出会う。ユーゴスラヴィアから来たというマーヤ。たった2ヶ月だったけれど、彼女との思い出は強烈な印象を残した。「マーヤはどこから来たのか?」彼女の帰国後、謎解きが始まった・・・。

守屋、大刀洗、白河、文原、そしてマーヤ。最初読み始めたときは、彼らの他愛もない会話が退屈に思えてしょうがなかった。だが、読み進めていくうちに、会話の中に隠されているマーヤの思いにしだいに気づかされていった。どこに帰るかだけは決して言おうとせずに帰国したマーヤ。そこから守屋たちの謎解きが始まるが、ユーゴスラヴィアはひとつの国でないことを思い知らされる。退屈だと思えた会話の中にちりばめられたマーヤにつながる手がかり・・・。それを知ったとき、物語の面白さが見えてきた。マーヤはどこに帰ったのか?そしてマーヤのその後は?ラストは胸が痛くなった。戦争がいかに悲惨なものか!そして何気ない日常生活がどんなに貴重なものか!この作品に込められているものは、あまりにも重い。

ゆこりん : 17:07 | コメント (0) | トラックバック (0) | 作者別・・よねざわほのぶ

2008年07月11日

昭和俠盗伝(浅田次郎)


昭和の初め、日に日に戦争色が濃くなっていく中、ついに寅弥が我が子のようにかわいがっていた勲に召集令状が届いた。戦争に突っ走ろうとする日本の国に対し、批判を込めて松蔵たちはある企みを計画した・・・。表題作を含む5編を収録。「天切り松 闇がたり」シリーズ4。

義理や人情を重んじ生きてきた松蔵たちだったが、時代が昭和になり日に日に戦争が暗い影を落とすようになる。寅弥や勲のためにどえらいものを盗もうとする松蔵たちを描く「昭和俠盗伝」、永田少将を斬殺した相沢中佐を描く「日輪の刺客」「惜別の譜」、愛新覚羅溥傑と浩を描いた「王妃のワルツ」は、人々の悲哀がにじみ出ていて、とても切なかった。狂気の時代へと突入する日本・・・。これから、安吉は?寅弥は?栄治は?常次郎は?おこんは?もっともっと松蔵に語ってもらいたいと思った。

ゆこりん : 14:33 | コメント (0) | トラックバック (0) | 作者別・・あさだじろう