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2007年8月30日

楽園(宮部みゆき)


事故死した少年が遺した絵に描かれていたのは、16年前の事件だった。床下で眠り続けた少女の遺体が発見されたとき、すでに描かれていた絵・・・。その謎が解けたとき、悲しい親子の姿が見えてきた。

とてもいい作品だと思った。事の始まりが少年の持つ特殊能力という特異な設定でこれに違和感を感じる人もいると思うが、それがきっかけで16年前の事件の真相に迫る過程は見事としか言いようがない。作者の筆力を改めて感じた。事故死した息子の生きた軌跡をたどろうとする母、わが娘を手にかけてしまった夫婦と殺された娘の妹の家族3人の関係、過去の事件で受けた心の傷が癒えないフリーライター。登場人物たちもしっかりと描かれている。この作品はミステリーではない。事件によって引き起こされる悲劇をじっくりと描いた作品だと思う。そういう意味では、フリーライターの前畑滋子が関わり心に傷を負った事件が「模倣犯」ではなくていいと思う。むしろそうでない方が望ましい。まったく別ものとして捉えた方が、作品に対する印象も変わるのではないだろうか。「模倣犯」の延長上にある作品と見られることが、この作品のマイナスになっている気がして残念だ。

ゆこりん : 17:01 | コメント (6) | トラックバック (1) | 作者別・・みやべみゆき

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楽園 宮部みゆき 文藝春秋 2007年8月        前畑滋子は、交通事故で小学生の息子等を亡くした萩原敏子から、等... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2007年10月15日 20:05


コメント

こんにちは!ご無沙汰しています。
この作品、模倣犯のような派手さはなかったけれど、心情が細やかに描かれていて読み応えのある作品でした。
模倣犯とは別物として読んだ方がよさそうですね。

投稿者 : 2007年10月15日 20:06

>花さん
こんにちは。お久しぶりです。
いつもブログは拝見しているのですが
読み逃げです(^^;
「楽園」は無理に「模倣犯」と結びつける必要は
ないと思うんです。よく比較して書評を書いている方が
いるんですけど、比較するとどうしても「楽園」を
批判的な目で見てしまうような気がして・・・。
読み応えのあるいい作品ですよね。

投稿者 ゆこりん Author Profile Page : 2007年10月16日 13:35

おはようございます。ゆこりんさん。
やっと読み終えましたが、あまりにも【模倣犯】のイメージが強すぎて、ゆこりんさんの書かれている通り、それがマイナスになっているような気がしました。
バリバリのミステリーを期待して読んでいたので、期待通りの読後感が得られませんでした。
人物、一人一人の心理描写は見事でしたよね。

投稿者 ゆう : 2007年10月17日 09:42

>ゆうさん
こんにちは(*^▽^*)
読み応えのある作品だったのですが、いろいろな方の
感想を見ると、「模倣犯」と比較する方が多いんです。
残念だわ~。「模倣犯」がこの作品にとってすごく
マイナスになってます。そう思います・・・。

投稿者 ゆこりん Author Profile Page : 2007年10月17日 15:01

初めまして。
TBさせていただきました。

前作「模倣犯」との話。
なるほどそうかも知れません。
帯やPRでも、その点ばかりが強調されてますもんね。
『あの「模倣犯」の〜』みたいに。

いろいろ参考にさせて下さい。

投稿者 mikey : 2007年12月12日 05:59

>mikeyさん
はじめまして。
コメントをありがとうございます。
TBは、探したのですが見つかりませんでした。
すみません・・・。
「模倣犯」にあまり引きずられないほうがいいと
私は思いました。二つの作品をくらべて、批判して
いる方が多いんです。こんなに読み応えのある
いい作品なのに、そんな見方をされてはかわいそう・・。

投稿者 ゆこりん Author Profile Page : 2007年12月12日 16:14