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2014年5月30日

BT'63(池井戸潤)


精神を病み妻とも別れてしまった琢磨は、実家に戻ることになった。ある日押し入れで、彼は父が昔使用していた制服を見つけ出す。それは、父が結婚する前に勤めていた会社で使用したもので、父と息子をつなぐ不思議な役割を果たすことになった・・・。

子どもは、自分の両親のことをどこまで知っているのだろう?たぶん、親としての姿しか知らない。ひとりの男性、ひとりの女性として見ることは、なかなかできない。親は親でしかない。それは子どもとして当たり前のことなのだけれど。だが、両親にもひとりの男性、ひとりの女性としての人生がある。誰かを愛したり、生きることに苦悩したり、泣いたり笑ったり怒ったり・・・。琢磨は、ふとしたことから40年前の父の姿を見ることができるようになる。そこには、琢磨の知らない父の姿があった。ある女性との恋、勤めている運送会社での新規事業の開発、銀行との交渉・・・。父史郎は、必死に生きていた。だが、ある事件が彼を窮地に追いやる。おのれの生命の危険さえ感じるできごとに、史郎はある決断をした。それは苦渋の選択だった。琢磨は、そのすべてを見た。そして、過去と現在をつなぐトラックBT21号の行方を追い求める。
父史郎は5年前に死んでしまったが、琢磨が過去の父の姿を追い求めることで、父と息子の絆はいっそう深まったのではないかと思う。ひとりの人間としての史郎の生きざまは、これからの琢磨の人生を照らす光になってくれるのではないだろうか。ここから琢磨が再生することを願いたい。感動的な作品だった。

ゆこりん : 20:09 | 作者別・・いけいどじゅん