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2014年5月12日

しぶちん(山崎豊子)


東横堀の材木問屋 山田万治郎は、"しぶちん"と呼ばれていた。沢庵売りから材木問屋の主人にまでなった男の生きざまとは・・・。表題作「しぶちん」を含む5編を収録。

「しぶちん」は、単なるケチのことではない。節約するところは徹底的に節約する。だが、ここぞ!というときには惜しげなくお金を使う。お金の使いどころをわきまえた人間なのだ。相手に「しぶちん」と言うのは、決して悪口ではない。その言葉の中には敬意の念も含まれている。山田万治郎の半生を描いた話は、とても興味深かった。人と同じことをしていては決してのし上がれない。彼の生きざまには教えられるものも多かった。
「船場狂い」は、人間の執念を描いた話だ。届かぬ夢と諦めないでおのれの夢をかなえることに奔走した久女の姿は、滑稽でもあり切なくもある。
「持参金」も、なかなか面白かった。ある女性に隠された秘密とは?思いがけない真相には驚くやらあきれるやら・・・。
「死亡記事」は、ひとりの男の人生を描いた話だ。その生き方は波乱万丈だった。余韻が残る話だった。
「遺留品」もよかった。ある男の死。そして遺された物・・・。その物は、男の評価を変えるものなのか?「ひとりの人間の評価は、たまたま起こった一つの事柄や事件によって、そうたやすく塗り変えられるものではない」という言葉が、とても印象に残った。
山崎豊子さんの初の短編集だが、どの話も面白かった。今まで長編ばかり読んできたが、短編集も魅力ある作品だと思った。

ゆこりん : 19:56 | 作者別・・や他