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2013年3月29日

桜ほうさら(宮部みゆき)


富勘長屋に暮らす笙之介には、人に言えぬ思いがあった。
「父の無念を晴らしたい。」
身の回りで次々と起こる不思議なできごとを解決しながら、笙之介は父の死の真相を追い求める。求める先に待っているものは・・・。

人は、本当にさまざまなものを背負って生きている。悩み、苦しみ、悲しみ・・・。でも、この作品に登場する笙之介や和香、そして富勘長屋の人たちは、皆背負っているものは違うけれど前向きに生きている。明日という日への希望を決して捨ててはいない。だが一方で、自分の未来を自らの手で閉ざし、心を黒く塗りつぶしてしまった人もいる。「誰がどうなろうとも関係ない。」投げやりな生き方をしている者の心に悪が入り込む・・・。笙之介の父を死に追いやった者は憎い。だが一方で、そんな生き方しか選べなかった者に、哀れみも感じる。成長するということは、人の愚かな部分や醜い部分を知るということではないだろうか。そういう意味では、笙之介はずいぶん成長したと思う。母と笙之介、兄と笙之介、その関係は必ずしも好ましいものではなかったけれど、笙之介ならそれを乗り越えていけるだろう。この作品を読み終えたとき、タイトルに作者の深い思いが込められていたことに気づいた。そしてそれは、読み手である私の心にほのぼのとしたぬくもりを残した。心にしみる、しっとりとした深い味わいのある作品だった。

ゆこりん : 16:28 | コメント (2) | 作者別・・みやべみゆき


コメント

私も先日、読了しました。
「ほうさら」は私の住む山梨県の方言です。
今でも、あれもこれもと忙しい時に「ささらほうさらだ」と言います。
今作は時代小説の設定になっているけれど、親子や兄弟のしがらみなど現在もなお通じているような気がしました。

投稿者 hiromi : 2013年3月29日 20:19

>hiromiさん
コメントありがとうございます。
「ほうさら」、今でも使われているんですね。

笙之介の親との関係や兄との関係は、読んでいて
つらかったです。笙之介がかわいそう・・・。
心に残る作品でした。

山梨には行ったことがないので、今度行ってみたいです(#^_^#)

投稿者 ゆこりん : 2013年3月30日 05:57