« ヴァン・ショーをあなたに(近藤史恵) | メイン | 夏目家順路(朝倉かすみ) »

2010年12月20日

小さいおうち(中島京子)


「小さな赤い三角屋根の洋館での暮らしが、私のすべてだった・・。」
年老いたタキが、「女中」時代の思い出をノートに書き綴る。日本が戦争へと向かう時代、平井家の人たちとタキとのふれあいを描いた作品。

淡々と、本当に淡々と、タキの女中時代の思い出が語られる。日本が悲劇の戦争へと向かって行き、やがて終戦を迎えるまでの生活があざやかに、そしていきいきと描かれている。戦前の中流家庭の様子はこんなだったのかと、面白さを感じながら読んだ。時子の明るい性格。まるで友だちのような時子とタキ。ふたりの関係はこのままずっと続いていくかに思われた。だが、"あるできごと"がきっかけで、ふたりの間には見えない溝ができてしまう。けれど、その溝はそれほど深刻なものだと思わなかった。そして、この作品をとても平凡な作品だとも思っていた。この作品のラストを読むまでは・・・。タキが語ることのなかった事実。それが明らかになったとき、その意外な展開に驚いた。同時に、この作品のタイトルの持つ意味の深さに感動した。平凡な物語が、ラストで衝撃的な物語に形を変えた!強く余韻が残る作品だった。

ゆこりん : 17:08 | 作者別・・な