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2010年7月20日

我、言挙げす(宇江佐真理)


「八丁堀純情派」を名乗った不破龍之進、緑川鉈五郎、春日多聞、西尾佐内、古川喜六、橋口譲之進。彼らは成長し、後輩もできた。そしてついに、古川喜六が結婚することになった。嫁になる芳江の父帯刀清右衛門は、かつて上司の不正を暴こうとして失敗し、閑職に追いやられた。「自分ならどうすべきか?」龍之進の心は揺れる・・・。表題作「我、言挙げす」を含む6編を収録。髪結い伊三次捕物余話シリーズ8。

今回の作品も読み応えがあった。「粉雪」では凶悪な事件を扱っているが、伊三次と伊与太のほほえましい親子関係に救われる思いがする。「委細かまわず」では、直面した問題に正義感の強い龍之進の苦悩する様が描かれている。小早川も、考えれば哀れだ。「明烏」では、お文の不思議な体験を描いている。「もしあの時、違う道を選択していたのなら・・・。」お文の心の動きが、興味深い。「黒い振袖」では、お家騒動に巻きこまれた姫君と龍之進との淡いふれあいが印象的だ。「雨後の月」では、弥八とおみつ夫婦の関係をしっとりと描いている。人間、生きていればいろいろあるものだ・・・。表題作「我、言挙げす」もよかった。おのれの信念を貫くことは大切だが、それだけではどうすることもできない問題も多々ある。
この作品のラストでは、伊三次一家にまたまた試練が降りかかる。「八丁堀純情派」、そして「本所無頼派」は、この先どうなっていくのか?ますます楽しみなシリーズだ。

ゆこりん : 17:04 | 作者別・・うえざまり