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2010年2月23日

黒く塗れ(宇江佐真理)


伊三次の客である翁屋八兵衛の、妻おつなの様子がおかしい。どうやら、店の金を持ち出しているらしい。だが、おつなはまったく身に覚えがないと言う。伊三次は出かけていくおつなの後をつけるが、目にしたのはおつなの不可思議な行動だった・・・。表題作「黒く塗れ」を含む6編を収録。髪結い伊三次捕物余話シリーズ5。

今回も、楽しみながら読んだ。表題作の「黒く塗れ」では、人の心を思いのままにしようとする男との対決が面白い。「蓮華往生」では、寺の悪事に腹が立った。それと同時に、年をとることの哀しさも味わった。「畏れ入谷の」では、どんな要求でも上の者の言うことは無条件にきかなければならないという、その理不尽さに憤りを感じた。「夢おぼろ」では、富札を買いそれで夢を実現しようとする伊三次を描いている。いつの世も、人は夢を追い求める。だが、当たらないのは今も昔も変わりはない。「月に霞はどでごんす」では、金で他人の恨みを代わりに晴らす男を描いている。道を踏み外した者には、ぞくっとする怖さがある。またこの話の中で、お文の出産も描かれている。伊三次もついに父親になる。「慈雨」では、堅気になるため自分の指を切り落とし、伊三次の前から姿を消していた直次郎を再び登場させている。直次郎とお佐和、離れていても互いを思いやる心にホロリときた。どの話も、読んでいて心にしみてくる。移りゆく季節の中で、流れゆく時の中で、彼らはこれからどう生きていくのか?ますます楽しみなシリーズだ。

ゆこりん : 19:20 | 作者別・・うえざまり