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2010年2月22日
廃墟に乞う(佐々木譲)
ラブホテルで40代の女性が殺害された。ある事件で心に傷を負い休職中の仙道は、13年前に担当した娼婦殺害事件に手口が似ていることに気づく。「そのときの被疑者古川幸男は出所しているのか?」仙道は、古川の故郷を訪ねることにしたのだが・・・。表題作を含む6編を収録。直木賞受賞作品。
主人公は、休職中の警察官。事件に対し何の権限もないまま、依頼人の懇願により、真相究明に乗り出す。限られた時間、限られた事柄から、彼は事件の裏に隠された真実に迫っていく。そして、その真実にからみついたさまざまな人間たちの愛憎や悲哀も知ることになる・・・。どの話も読み手の心に深く入り込んでくる。特に印象深かったのは、表題作の「廃墟に乞う」だ。登場人物たちの胸の中に抱えるもの、何気ないしぐさの中に隠された心の闇などを、作者はていねいに、そして深く描いている。派手さや強いインパクトはないが、いぶし銀のような渋い魅力を持つ、味わいのある作品だと思う。