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2010年1月16日

紫紺のつばめ(宇江佐真理)


「髪結いじゃ、あんたを極上の女にすることはできない。着物も二番手のものばかり。簪も安物に見える。」材木商伊勢屋忠兵衛の言葉にお文の心は激しく動揺し、彼の申し出を受ける決心をする。だが、そのことが伊三次との間に深い溝を作ってしまった。はたして、ふたりは・・・。表題作「紫紺のつばめ」を含む5編を収録。髪結い伊三次捕物余話シリーズ2。

シリーズ2では、ふたりの別れを描いた「紫紺のつばめ」から始まる。それは、衝撃とも思える始まりだ。この先どうなるのか?ふたりの関係にハラハラしながら、ほかの話を読んだ。「ひで」は、心の痛む話だ。好きな人のために自分の人生を変えることができるのか?両方取ることができなかった男の人生は哀れだった。「菜の花の戦ぐ岸辺」では、伊三次に殺しの容疑が!!そのときの不破の態度が、伊三次との関係にひびを入れる原因となるのだが・・・。妥協を許さず、現実をしっかり見据えようとする作者の厳しいまでの思いが、この話から伝わってくる。「鳥瞰図」では不破の妻いなみに異変が!不和には知らせずに陰で動く伊三次たち。不破と決裂した伊三次だが、心のどこかに不破を慕う気持ちがまだ残っていたことに、安堵した。「摩利支天横丁の月」では、伊三次に救われた弥八と、お文の家の女中をしているおみつとのふれあいをしみじみと描いている。どの話も読み応えがあり、心に響くものがある。面白い作品だと思う。

ゆこりん : 14:46 | 作者別・・うえざまり