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2010年1月15日

幻の声(宇江佐真理)


日本橋の呉服問屋成田屋の娘がかどわかされた。下手人を捕らえてほっとしたのもつかの間、翌月になり下手人は自分だと女が名乗り出てきた。深川で芸者をしている駒吉という女だった。彼女はなぜ下手人の男をかばおうとするのか?そこには秘められた悲しい過去があった・・・。表題作「幻の声」を含む5編を収録。髪結い伊三次捕物余話シリーズ1。

「短編集はばらつきがあり、全ての話がいいというわけにはいかない。」
ずっとそう思ってきたが、この作品を読んでその考えが見事に覆されてしまった。どの話もすごくいいのである。ひとつひとつキラキラと輝いている。「幻の声」に登場する芸者駒吉の心情には、ほろりとさせられた。「暁の雲」に登場する塩魚問屋のおかみを襲った不幸の結末には、胸を痛めた。「赤い闇」では、同心不破の妻いなみの壮絶な過去や、隣に住む村雨家の悲劇に、つらいものを覚えた。「備後表」にはたっぷり泣かされた。そして、「星降る夜」では、さまざまな人たちの心の葛藤に、読みながら一緒に悩んだり、悲しんだりし、さらに感動も味わった。起伏に富んだストーリー展開は、この作品を味わい深いものにしている。登場人物もかなり魅力的だ。伊三次と文吉はこれからどうなるのか?この先がとても楽しみなシリーズだ。

ゆこりん : 15:37 | 作者別・・うえざまり