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2010年1月11日

天狗風(宮部みゆき)


その風は天狗風と呼ばれた。その風が吹いたとき、娘が神隠しにあったように忽然と姿を消した。不思議な力を持つお初は、右京之介とともに姿を消した娘たちの行方を追うが、得体の知れない何者かがふたりの前に立ちはだかった・・・。霊験お初捕物控2。

文庫本で564ページ。怖ろしく長い作品だが、構成力がとてもよく、長さをまったく感じさせない魅力ある話の展開になっている。次々に行方不明になる娘たち。そのときに吹く不思議な風の正体は?お初と右京之介がしだいに真相に迫っていく様を、息詰まるような気持ちで読んだ。また、登場する人たちの描写もていねいで、読んでいるとその人物像がくっきりと浮かび上がってくるようだった。
この世の中、怖ろしいのは妖怪や幽霊などではない。人の心や、人の思いから作り出される怨念だ。そのことをいやというほど思い知らされた。人は、仏にも鬼にもなれる。そのきっかけはほんの紙一重の差しかない。だが、人が作り出した怨念を鎮めるのも、また人の心なのだ。そこに「人の心」の不思議さを感じる。ラストもよくまとめられていて、読者の期待を裏切らないものになっている。特に最後の10行はほっとして微笑まずにはいられない。一気読みしてしまうほど面白い作品だった。

ゆこりん : 21:05 | 作者別・・みやべみゆき