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2009年8月27日

鷺と雪(北村薫)


そこにいるはずのない人が写真に写っている!能楽堂で「鷺」を演じた万三郎が、いつもはつけない面をつけていた!作家芥川龍之介の体験したドッペルゲンガーとは?英子とベッキーさんの謎解きの結末は?「鷺と雪」を含む3編を収録。「街の灯」「玻璃の天」に続く、シリーズ3作目。

3編どれもが期待どおりの面白さだった。「鷺と雪」のほかに、突然失踪した華族の男の謎を追う「不在の父」、真夜中に出かける少年の目的を探る「獅子と地下鉄」の話がある。この中で一番心に残ったのは「鷺と雪」だった。さまざまな謎を解き明かす面白さに酔いしれていると、ラストで突然刃を突きつけられるような衝撃に襲われる。英子やベッキーさん、そして彼女らを取り巻く人たちのおだやかな生活が、このままずっと続くかに思われたのだが・・・。残酷な時の流れが、否応なしに人々を飲み込んでいく。暗い時代の幕開けを予感させる終わり方に、ただ呆然とするのみだった。このシリーズがこういう形で終わるとはまったく予想していなかっただけに、強烈な余韻が残る作品となった。

ゆこりん : 19:41 | 作者別・・きたむらかおる