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2009年6月29日
虚無への供物(中井英夫)
氷沼家は呪われているのか?
昭和29年の洞爺丸沈没で両親を失った氷沼蒼司・紅司兄弟とそのいとこである藍司。心の傷も癒えぬうちにさらなる悲劇が襲う。紅司が密室状態の風呂場で謎の死を遂げ、さらに叔父の橙次郎も!事故か殺人か?歌手の久生や、久生の婚約者俊夫、久生の友人亜利夫らの推理が始まる。はたして犯人にたどり着けるのか?
作者が10年近くの歳月を費やした1200枚の大作は、かなり読み応えがあった。氷沼家にまつわる因縁話は横溝正史の作品を思い出させるが、そこまでどろどろとしたものではなかった。よくある密室殺人を緻密な描写で書き込み、独特の世界観に仕上ている。その作者の情熱が、読んでいると行間からひしひしと伝わってきた。人物描写もそれぞれの個性がよく描かれていて、生き生きとした印象を読み手に与える。内容は全体的に興味深いものなのだが、とにかく長い。長すぎる。延々と続く会話や詳細な説明の描写は、読み手をうんざりとさせるほどだ。もう少し簡潔明瞭に書いた方が作品として読み手を挽きつけるのではないだろうか・・・。
完全なミステリーとは言えないが、それなりに楽しめる作品だと思う。