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2008年3月 7日

桜花を見た(宇江佐真理)


母が死ぬ間際に明かした秘密。それは、英助の父が北町奉行の遠山左衛門尉景元だということだった!「父に会い、息子だと名乗りたい。」英助の願いは叶うのか?表題作を含む5編を収録。

筆屋の娘と絵師の恋を描いた「別れ雲」、北斎とその娘を描いた「酔いもせず」は、ホロリとする話だった。「夷酋列像」と「シクシピリカ」は、同じ出来事を松前藩の内側と外側から描いていて興味深かった。だが一番印象に残ったのは「桜花を見た」だった。父と息子でありながら、別々の道を歩んできた二人。会いたいと思う気持ちは同じだっただろう。英助は誰にも知られずに会うことを望んでいたが、それはなかなか果たすことのできない願いだった。だが、それは思いも寄らぬ形で実現する。そのきっかけを作った出来事、そして父と息子の生涯でただ一度の出会いの場面、その二つは読んでいて涙が出るほど心にぐっときた。人が人を思いやる心ほど感動することはない。5編どれも、人情味あふれるとても素敵な物語だった。

ゆこりん : 14:41 | 作者別・・うえざまり