« とかげ(吉本ばなな) | メイン | チョコレートコスモス(恩田陸) »
2006年4月16日
兄弟(なかにし礼)
両親からは期待され、弟からは憧れの目で見られていた兄だったが、戦争から戻った兄は以前の兄ではなかった・・・。兄に振り回されどおしだった弟が描く家族の物語。
戦争が兄の心を壊してしまったのだろうか。そのどこか投げやり的な生き方は異常とも思える。そんな兄に翻弄される家族。特に、弟禮三が作詞家として売れてから以降は凄まじい。普通の人間ならとっくに縁を切ってもおかしくない状態なのに、禮三は兄をかばい続ける。切りたくても切れない。家族とはそういうものなのかもしれないと思う。だがついに弟が兄を見限る日が来る。そして兄の死。
「兄貴、死んでくれて本当に、本当にありがとう。」
禮三の叫びの中に、深い悲しみを見た。もし戦争がなかったら、平凡な兄弟でいられたかもしれない。そう思うと、兄の人生が哀れでならなかった。