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2003年7月17日

深尾くれない(宇江佐真理)


牡丹の花をこよなく愛した深尾角馬。その色は「深尾紅」とまで言われるほどだった。彼は一度目の妻も二度目の妻も、自分の手で斬らねばならなかった。そのわけは?実在の人物、雖井蛙(せいあ)流の始祖、深尾角馬の生涯を描いた作品。

幼い頃に母を亡くし、まるで母のかわりのように牡丹の花を愛し、慈しみ育てる角馬。彼は無骨で、妻にやさしい言葉のひとつもかけられなかった。人には、言葉にして思いを伝えなければならないときがあると思う。それをしなかった角馬。きっと妻は、愛されているのかどうか分からずに寂しかったのだろう。「深尾紅」。角馬の娘ふきは、父が斬った人たちが流した血の色だと言った。しかし私はそうは思わない。角馬が言葉に出来なかった、心のうちに秘めた熱い思いの色、そんな気がしてならない。

ゆこりん : 11:26 | 作者別・・うえざまり