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2013年10月25日

ああ満鉄(宇佐美喬爾)


1945年8月15日、終戦。そして、日本は敗戦国になった・・・。
満鉄参与、満州車輛社長、奉天日本人居留会会長として、戦後の混乱期を乗り越えたひとりの日本人の、命がけの行動の記録。

終戦直後、この作品の著者宇佐美喬爾氏は、満鉄参与、満州車輛社長、奉天日本人居留会会長として、ソ連軍や中国軍との折衝にあたった、また、日本人を略奪、暴行、虐殺から守るためにも尽力された。終戦直後の満州の混乱、そして悲惨さは想像を絶する。そんな中、自分自身の危険も顧みず宇佐美氏は行動する。満州における日本人を取り巻く状況は本当にひどい。読んでいて本から顔をそむけたくなるほどだった。ソ連軍、中国軍と堂々と渡り合う宇佐美氏の姿は本当に素晴らしい。あの時代に、こんなりっぱな日本人がいたのだ!だが、彼も抑留され、死と隣り合わせの生活を強いられる。そこから抜け出し無事日本に戻ることなど奇跡に近いとしか思えない状態だったのに、よく生還できたと思う。
宇佐美氏は満州から引き上げ後すぐに自分の体験を発表しようとしたが、GHQから制約を受ける。「すべてを発表することができなければ意味がない」そう考えてじつに37年間もそのままにしておいたそうだ。そして、1983(昭和58)年、彼が90歳のときについに出版された。それがこの本だ。戦争の悲惨を克明に記録した貴重な作品だと思う。絶版になってしまって本当に残念だが、多くの人に読んでもらいたいと思う。

ゆこりん : 20:15 | 作者別・・う他