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2013年10月19日

友罪(薬丸岳)


ステンレス工場で働き始めた益田純一は、同じ日に入社した鈴木秀人という男とあることがきっかけで親しくなる。鈴木は無口で暗い男だったが、しだいにほかの者たちとも打ち解けて行く。だが、鈴木には重大な秘密があった。そのことに気づいた益田は・・・。

14年前に益田の郷里で起きた殺人事件。それは、14歳の少年による残虐な事件だった。「黒蛇神事件」と呼ばれ、いまだに人々の記憶の中にある事件・・・。その犯人が鈴木ではないのか?もし、犯人だったとしたら、今までどおりに付き合えるのか?鈴木が益田を慕えば慕うほど、益田は苦悩する。
奪われてしまった命はもとには戻らない。死んでしまった者は生き返ることはない。被害者の家族にしてみれば、鈴木は一生許すことのできない相手だ。だが、作者は読み手に対し、重い問いを投げかける。「罪を犯した者は、いつまでもその罪から逃れられないのか?どんなに後悔しても、どんなにまじめに生きていこうとしても、社会から受け入れられることはないのか?罪の意識にさいなまれながらひっそりと日の当たらない場所で生きていくしかないのか?」と・・・。
けれど、付き合っている者が残虐な殺人者だったと知ってしまったら、今までと同じ関係を続けていけるだろうか?いつもと同じような顔をして相手と向き合えるだろうか?たぶん、私にはできない。きっと相手から遠ざかってしまうだろう。そうすることがいいとは思えなくても。相手を傷つけてしまうとわかっていても。
「人と深く接しようと思わなければ、誰も傷つけることはなかった」
この鈴木の言葉が、たまらなく切ない。鈴木のしたことは絶対に許せることではない。けれど・・・。心が複雑に揺れ動いた。
益田の悲痛な叫びが、鈴木に届くのだろうか?ラストでは思わず涙がこぼれた。鈴木はどんなことがあっても生きていかなければならない。それが彼の義務だと思う。
重い内容だけれど、心を強く揺さぶる感動的な作品だった。オススメです。

ゆこりん : 15:12 | 作者別・・や他