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2013年10月17日
ホテルローヤル(桜木紫乃)
釧路湿原を見下ろす高台に、ラブホテル「ローヤル」はあった・・・。そこで働く者たち、そこを利用する者たち、さまざまな人々のさまざまなドラマを、瑞々しいそして独特の感性で描いた作品。
人というのは、実にさまざまな思いを抱えて生きている。心の奥に秘められた憂い、悲しみ、悩み、とまどい・・・。作者は、それらをそっと両手ですくい上げ、本の中にちりばめている。希望に満ちて「ローヤル」を建てた夫婦。その「ローヤル」の中でひっそりと働く者。そして、いろいろな事情で「ローヤル」を訪れる者。世の中、いいことばかりはない。むしろ不幸なできごとのほうが多い。作者の叫びのような描写が、読んでいて胸に突き刺さる。「生きるということはこういうことなのか!」だが、「そこから逃げてはいけない。どんな時も前を向いていなくては!」そういう作者の思いも伝わってくる。楽しく読める作品ではない。けれど、読んだ後におだやかな余韻に心が満たされていくような感じがした。深い味わいのある作品だと思う。