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2013年10月16日

マリコ(柳田邦男)


日米関係が悪化しつつあった1941年、9歳の少女の名が暗号に使われた。その名は「マリコ」。日本人の父とアメリカ人の母を持つ彼女を通して太平洋戦争の悲惨さを浮き彫りにした作品。ノンフィクション。

マリコの父は日本人で、寺崎英成といった。彼は日本大使館の一等書記官だった。一方、マリコの母はアメリカ人で、グエンといった。外交機密を扱う外交官の国際結婚は、日本の外務省では好ましくないものとされていた。そのうえ、当時は日米関係が悪化の一途をたどっていた時でもあったのだ。だが、彼はおのれの信念を貫いてグエンと結婚する。そして、マリコが生まれた。1941年、日米開戦を避けるべく奔走していた寺崎は、日米関係の状態を「マリコ」をキーワードにして表現し、本国の外務省と情報のやり取りをしていた。しかし、努力もむなしく、日本は戦争へと突入する・・・。自分の名前が暗号に使われいたことなどまったく知らなかったマリコも、しだいに戦争の渦の中に巻き込まれていく。父の国と母の国が戦う。その衝撃的な事実を、彼女はどう受け止めていたのか。戦前、戦中、戦後、時代は大きく動いていく。戦後も、寺崎は国を代表するひとりとして仕事に励んでいたが、ついに病に倒れた。マリコの教育のためグエンとマリコはアメリカに行っていて、彼の死に目には会えなかった。戦争が寺崎一家の運命を大きく変えてしまった・・・。だが、マリコはずっと前を向いて歩いてきた。のちに、彼女はアメリカの政治を改革しようとする。この行動力はすごい!マリコは、世の中を争いのない平和なものにしたかったに違いない。
この作品は、実に中身が濃い。マリコの半生だけではなく、戦前日本がどういう状況だったのか、戦後どのように混乱する事態を収拾していったのかもよくわかる。現在は絶版になってしまって手に入らないのが残念だが、ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思う。

ゆこりん : 16:57 | 作者別・・や他