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2013年9月28日

夢を売る男(百田尚樹)


出版社丸栄社の牛河原は、敏腕編集者として忙しい日々を送っていた。彼のもとには、自分の本を出版したいと思う人たちが訪ねてくる。彼らの欲求を満たし、かつ会社の利益につながる方法とは?

「自分の本を出版したい。」
そう思う人たちに、牛河原は言葉巧みにジョイント・プレス方式を持ちかける。それは、出版費用を出版社と著者とで分け合う方式だ。けれど、著者が支払う額は丸栄社に多大な利益をもたらす。それほど高額だ。自費出版よりかなり高い。だが、牛河原に巧妙にプライドをくすぐられた人たちは、ためらいもなく支払う。自意識過剰な人たちのなんと多いことか!最初、丸栄社は暴利をむさぼる会社かと思った。でも、読んでみると一概にそうとは言い切れないところがある。出版費用はかなり取られるが、出版した人たちはほとんどが満足しているのだ。売れる売れないではない。自分の書いたものを認めて評価してくれて、出版にまでこぎつけてくれた人がいた。そのことだけで充分なのだ。悪人かと思った牛河原は、本の出版に情熱を傾ける、熱い熱い男だったのだ。彼の語る出版にかける思いはなかなかのものだ。中には「百田某」という作家を痛烈に批判している個所もあり、思わず笑ってしまったが。
今、出版業界は電子書籍の登場で大きく変わろうとしている。本を読む人の数も減っている。いったいこの先どうなるのか・・・。この本を読みながら、そんな思いにもとらわれた。
詐欺まがいの話あり、人情味あふれる話あり、笑える話あり、とにかく楽しめる作品だった。

ゆこりん : 15:50 | 作者別・・ひゃくたなおき