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2013年9月 8日

命のビザを繋いだ男(山田純大)


杉原千畝が発行したビザを持ち、ナチスの手から逃れ日本にやってきた約6千人のユダヤ人。いったい彼らはどのようにして日本から目的の国に向うことができたのか?実は、日本にも自らの命を賭けユダヤ人を救うため奔走した人物がいた!彼の名は小辻節三。戦後68年のときを経て、彼の偉大な行動が明らかになった。

杉原千畝の功績はかなり以前から知っていた。彼の発行したビザで、大勢のユダヤ人たちが救われたことを。だが、日本に逃れてきたユダヤ人たちがどのようにそこから目的の国へ行くことができたのか、今まで考えたこともなかった。この作品を読んで、初めてその経緯を知った。実は、杉原千畝が発行したビザの期限は10日間だった。わずか10日の間に、何千人ものユダヤ人のために目的の国々と交渉をして船便を確保するのは不可能だった。小辻節三は次々と日本にやってくるユダヤ難民たちの窓口となり、ビザの延長を可能にし、日本での生活の便宜を図った。また、ビザがないため日本に入国できずにいた者たちにも救いの手を差し伸べた。だがドイツは、ナチス親衛隊の幹部を日本に常駐させ、日本にいるユダヤ人迫害を画策していた。日本を取り巻く状況は日々悪化していく。こんな状況の中でよく何千人ものユダヤ人の命を救うことができたと思う。小辻節三の行いは、杉原千畝の業績に匹敵する。命のリレーは、杉原、小辻、このふたりの存在があったからこそ成し遂げられたことだ。どちらかひとりが欠けたら絶対にできなかったと思う。
著者の山田純大さんは、本当によく調べたと思う。小辻の自伝は英語で書かれたものしかなかったが、英語に堪能な著者だからこそ、ここから出発してさらに詳細に小辻のことを調べることができたのだと思う。だが、なぜこんなにすばらしい行いをした人物が今まで知られていなかったのかと不思議でたまらない。日本人として、私たちはもっと小辻節三のことを知るべきではないのか。いや、知らなければならない。
小辻節三は現在エルサレムの墓地で眠っている。著者は、ここを実際に訪れた。そのときのことを描いた写真や文章がとても感動的で、読んでいる私も感慨無量だった。なぜ小辻節三が日本ではなくエルサレムの地で眠っているのか?そのことも作者は丹念に調べ、この作品の中で詳しく述べている。小辻の想いは、読み手の胸を打つ。
この作品を、ひとりでも多くの人に読んでほしい。そして、「小辻節三」という人物を知ってほしい。厳しい状況の中でおのれの信念を貫き、ユダヤ人のために命を賭けた男のことを。彼の名を歴史の中に埋もれさせてはいけないと強く感じた。オススメです!

ゆこりん : 16:10 | 作者別・・や他