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2013年9月 5日

チェスの話(シュテファン・ツヴァイク)


ニューヨークからブエノスアイレスへ向う大型客船に、チェスの世界チャンピオンが乗船していた。大金を積み対戦を申し込んだが惨敗。二局目も不利な状況が続く。だが、そこにひとりの紳士が現れた。彼は、あっという間に形勢を逆転させる。だが彼は、25年も将棋盤に向ったことがなかったという。彼のチェスの強さは、異常な状況から生み出されたものだった・・・。表題作「チェスの話」を含む4編を収録。

亡き児玉清さんが絶賛されていた作品を読んでみた。かなり昔に書かれたものだが、今読んでも充分面白い。表題作「チェスの話」は、児玉清さんがもっとも愛した話だそうだが、異常な状況下に置かれた人間の心理が緻密に描かれていて、読んでいる私も息苦しさを感じてしまうほどの迫力だった。「目に見えないコレクション」は、盲目になってしまったコレクターの悲劇を描いているが、読みようによっては喜劇的な面もある。生きるためには、嘘もつく。そして秘密は、コレクターがこの世を去るまで秘密のままなのだ。彼が、憐れでもある。「書痴メンデル」も、ひとりの男の劇的な生涯を描いていて面白かった。不器用にしか生きることができなかたメンデル。悲劇の結末は印象的だった。「不安」は、この作品の中で私が一番好きな話だ。弁護士を夫に持つ女性は、若い男性と不倫をしていた。だが、いつも自分の不倫が夫にばれるのではないかと不安を抱いている。その不安がだんだんと増していき、彼女はしだいに身も心も追い詰められていく。「いつ張り詰めた糸が切れるのか?」読み手も、緊張が増していく。そして意外な結末!なかなかだった。
どの話も心理描写がよかった。登場人物の、不安、恐れ、おののき、悲しみ、怒り、喜び、どれもが読み手にしっかりと伝わってくる。時には痛いくらいに。読み応えのある作品だと思う。

ゆこりん : 20:34 | 作者別・・し他