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2013年8月30日

千両かんばん(山本一力)


「親方の後を継ぐのは俺だ。」
だが、親方の急死でその夢は叶わなかった。親方のおかみさんからは理不尽な扱いを受け、それにより弟弟子にも先を越されてしまった。失意のどん底であえぐ武市に、大店から看板の依頼があった。はたして武市は期待に応えることができるのか?

親方に見込まれ前途洋々だったはずなのに、親方の突然の死で人生が一変した。誰をうらむわけでもないが、武市の心はすさんでいた。だが、さまざまな人との関わりが、武市の心に少しずつ変化をもたらす。「いじけていてはだめだ。素直な気持ちにならなければ・・・。」暗闇から抜け出した武市は、おのれの信じた道を突き進む。周りの人間がどう批判しようとも、ただひたすら突き進む。武市が成し遂げた仕事は、武市ひとりの力ではない。いろいろな人の想いや努力があればこそのものだ。人情味あふれるストーリー展開は、読み手の心を熱くする。いつどんなときも、思いやりの心を忘れてはいけない。あらためて強く感じた。作者のほかの作品から比べるとインパクトが弱いような気がするが、心に温もりを与えてくれる、楽しめる作品だと思う。

ゆこりん : 20:16 | 作者別・・やまもといちりき