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2013年7月25日

はるひのの、はる(加納朋子)


幼い頃からユウスケには、人には見えないものが見えるという不思議な力があった。小学校に上がる前の年、ユウスケは川原ではるひというひとりの少女と出会う。ユウスケははるひから、亡くなった女の子を助ける手伝いをしてほしいと頼まれる。それはいったいどういうことなのか・・・?表題作「はるひのの、はる」を含む短編集。「ささら」シリーズ3。

この作品は「ささらさや」「てるてるあした」に続くシリーズ3作目で、完結編になっている。それだけに、「ささらさや」で登場したときはまだ赤ちゃんだったユウスケの成長がうれしい。ほかにも懐かしい人が登場している。
ユウスケは、人が見えないものを見ることができる。そんなユウスケの前に現れた、謎の少女。その少女との不思議なできごとを描いた「はるひのの、はる」。物語はさらに「はるひのの、なつ」「はるひのの、あき」「はるひのの、ふゆ」・・・と、ユウスケの成長をとらえながら続く。だが、ユウスケが体験するそれらの不思議なできごとがいったいどう形を作っていくのか、最初はまったく分からなかった。作者は、やさしくていねいに、その謎を解き明かしていく。
「ああ、こんなふうにつながっていたんだ。」
すべてのできごとがつながったとき、はるひという女性の切実な願いが見えた。そして、静かな感動を伴いながら物語はラストを迎える。変えられるものと変えられないもの。その違いは、本当につらく切ない。残酷なまでに・・・。できるのなら、すべてがいい方向に変わってほしかったと思う。
切ない中にも心にほんのりとした温もりが残る、深い味わいのある作品だった。

ゆこりん : 20:10 | 作者別・・かのうともこ