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2013年5月 9日

あの日にかえりたい(乾ルカ)


専門学校2年生の佳代は、ボランティア先の特別養護老人ホームでみんなから偏屈爺さんだと言われている石橋老人と親交を深めていった。佳代に心を許した老人は、自分の過去を語り始める。
「できることなら、俺はあの日に帰りたい。帰りたいんだ。」
老人のこの言葉には、いったいどんな思いが込められているのか?表題作「あの日にかえりたい」を含む6編を収録。

時の流れは、止められるものでも巻き戻しができるものでもない。けれど人は、「できるのならあの日あの時に戻りたい。」と切に願う時がある。後悔に満ちた心・・・。それは何と切ないものだろう。
6編どれもが読んでいて胸に迫るものがあった。中には切ないと言うより少々不気味に感じる話もあったが。その中で特に心を動かされたのは「翔る少年」だ。父と二度目の母と小学5年生の元。この3人を襲った悲劇が、15年という時を超えてよみがえる。それは、義理の母と少年の心を通い合わせるためだったのか。後悔の中で生きてきた母。15年前、自分の心のうちを語ることができなかった少年。すれ違っていたものがしだいにつながっていく。切ない切ない切ない・・・。読んでいて泣けた。だが、少年の心が幸福感で満たされていくようなラストには救われた。「夜、あるく」も、心に残った。生きていてよかったと思える瞬間が、人生の中できっとあるはずだ。それを信じて、これからも前向きに生きていける気がした。
「人生はやり直しができない。だからこそ、悔いのないように一日一日を大切に生きなくてはならない。」そういう思いを強く抱かせてくれる、面白い作品だった。

ゆこりん : 19:44 | 作者別・・い他