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2013年3月11日

とんび(重松清)


昭和37年。28歳のヤスさんに待望の長男が生まれた。愛する妻美佐子、そして大切な息子アキラ。かけがえのない家族。ヤスさんは幸せに包まれていた。けれど、その幸せは長くは続かなかった・・・。父と息子の愛情物語。

昭和ひと桁生まれのヤスさんは、私の父母と同じ年代だ。私は父を早くに亡くしたが、生きていればきっとヤスさんと同じ頑固者だっただろうと思う。愛情が無いわけではない。けれど、愛する者に対して「愛している。」とは口が避けても言わない。いや、照れくさくて言えないのだ。もしそんなことを口にしたら、男の沽券に関わるとでも思っているのだろうか?
妻を亡くし、男でひとつで息子アキラを育てるヤスさん。彼は、不器用な生き方しかできない。でも、まなざしは温かく、人を思いやる気持ちは誰よりも強い。息子のアキラは、そんなヤスさんのことをちゃんと理解している。父親の愛情を全身に感じている。いい親子だな~と思う。けれど、そんな親子にも別れのときはやってくる。子が巣立つ。それは、うれしくもあり、悲しくもあり・・・。
読んでいて、切ない中にもほのぼのとしたぬくもりを感じた。親子の絆にもあらためて目を向けさせてくれた、心に残る作品だった。

ゆこりん : 19:34 | 作者別・・しげまつきよし