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2012年9月10日

なずな(堀江敏幸)


独身の40代の男が、弟夫婦の子供を預かることになった。生後2ヶ月の女の子なずなとの生活は、未知のことばかりだった。周りの人たちの協力のもと、菱山は必死に子育てをするのだが・・・。

育児経験のまったくない40代の独身の菱山。ある日突然なずなの育児を任されることになる。ミルク、おしめの取替え、入浴、散歩などなど・・・。やるべきことは山のようにある。見も心もくたくたになりながら菱山は奮闘する。「ああ、赤ちゃんはこうやって大きくなっていくものだったなぁ・・・。」と、自分の育児経験を思い出した。生後間もない頃は本当に大変だと思う。何が起こるか分からない。だが、日々成長してく姿を見る喜びは何物にも換え難い。苦労以上の喜びがある。赤ちゃんは見る全ての人の心を和ませる。赤ちゃんを中心に人の輪ができていく。赤ちゃんは、不思議な力を持った命のかたまりなのだ。
周りの人たちに支えられながら、そして楽しみながら、菱山は子育てを続けていく。その姿は実にほほえましい。この作品では、大きな事件など起こらない。ただ普通の日常生活だけが静かに流れていく。だが、真の大きな感動は、この普通の生活の中にこそあるのだと思う。なずなはどんどん大きくなる。成長したなずなと菱山は、いったいどんな会話をするのだろうか?聞いてみたい。心をほのぼのとさせる、読み応えのある作品だった。

ゆこりん : 20:03 | 作者別・・ほ