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2012年5月18日

ピエタ(大島真寿美)


大作曲家でもあり、過去にピエタの司祭でもあったヴィヴァルディが、ヴェネツィアではなく遠いウィーンで亡くなった。教え子のひとりであったエミーリアは、行方不明になったヴィヴァルディの1枚の楽譜を追い求める。その楽譜に隠された謎とは・・・?

捨子養育院でもあり音楽院でもあるピエタ。そして、司祭でもあり音楽教師でもあったヴィヴァルディ。彼の突然の死は、そこで暮らす彼女たちに大きな動揺を与える。やがて、1枚の楽譜探しが、いつしかヴィヴァルディの知られざる面をあらわにしていくのだが・・・。
人は、さまざまな悩みやしがらみを抱えて生きている。裕福で幸せそうに見えても寂しい心を持った人。才能豊かであっても虚しさを感じながら日々生きている人。責任ある仕事に就き充実した生活をしていても、親がいないということに深く傷ついている人などなど・・・。ヴィヴァルディも例外ではなかった。心のどこかに寂しさや虚しさを抱えていたのだ。彼の死後、次第に明らかになる思いもよらぬ一面。生きるとは苦悩の連続なのか?喜びもつかの間のできごとでしかないのか?それでも明日に希望を見出そうと、人々は前へ前へと歩き続ける。その姿は、切ないまでに美しい。
どんなに時が流れても、人の想いは変わることなく受け継がれていくものなのだ。そのことに、心が震えるような感動を覚えた。深い味わいのある作品だと思う。

ゆこりん : 20:01 | 作者別・・お他