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2011年1月10日

虚栄の肖像(北森鴻)


佐月恭壱が引き受けた絵画修復の報酬は、古備前の銘品中の銘品の甕だった。「絵画修復の報酬にしては額が大きすぎる。」恭壱は違和感を覚える。実は、この裏には巧妙な罠が潜んでいた・・・。表題作「虚栄の肖像」を含む3編を収録。「深淵のガランス」に続く、佐月恭壱シリーズ2作目。

今回も、絵画修復という未知の世界を垣間見ることができ、とても興味深かった。その難しさ、繊細さには驚かされる。また、この作品を支えている作者の知識量の多さにも、ただただ驚くばかりだ。絵画修復に関わる謎も、本当によく考えられていると思う。さまざまな要素がほどよく混ざり合い、この作品を味わいのあるものにしている。表題作「虚栄の肖像」に出てくる古備前の甕や、ピカソの絵に仕掛けられた罠などは、読んでいて本当に面白かった。シリーズが進むにつれてさらに見えてくるであろう佐月恭壱の人間像、そして、彼や彼と関わりのある人たちの今後など、このシリーズに期待するものがたくさんあった。作者の急逝で断ち切られてしまったのは、本当に残念だ。早すぎる死が惜しまれてならない。

ゆこりん : 19:56 | 作者別・・きたもりこう