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2010年5月 7日
晴子情歌(高村薫)
300日、晴子はインド洋上にいた息子の彰之に手紙を出し続けた。100通の手紙には、少女から大人の女性へ変わりゆく晴子の姿が描かれていた。自分の目の前に現れた自分の知らない母・・・。彰之がとまどいの中で感じたものは?
昭和の初めから戦前戦後の混乱の時代を生き抜いてきた母。その半生を綴った手紙は、圧倒的な迫力で読み手の心を強く強く揺さぶる。晴子の人生は、平坦なものではなかった。彼女は必死に生きた。時には虚勢を張り、時にははいつくばるように、時には苦痛に身悶えしながら・・・。晴子の息づかい、しぐさ、細やかな心情が、作者の緻密な描写によりあざやかに、そして生々しく浮かび上がってくる。初めて知る母というひとりの女性の生きざまを目の当たりにした彰之の心理描写も見事だ。密度の濃い内容で読むのにかなり時間がかかったが、とても印象深い作品だった。
ゆこりん : 17:51 | 作者別・・たかむらかおる