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2010年4月30日

漆黒の王子(初野晴)


暴力団の組員が次々と謎の死を遂げる。その死に関わっていたのは、ガネーシャと名乗る人物だった。そのガネーシャは、地下の暗渠の中に・・・。そこには、「王子」と呼ばれるひとりの少年と6人のホームレスが生活していた。上の世界と下の世界。それをつなぐものはいったい何か・・・?

悪に満ちた世界。凄まじいいじめに遭いおのれの運命をねじ曲げられた男が、また新たな悪を作り出す。犠牲になった人たちの逃げ込んだ先は、日の光が届かない暗黒の世界だった。ガネーシャは戦った。ひとり、敢然と悪に立ち向かった。そうすることで自分がどうなるのか分かっていたはずなのに・・・。
上の世界と下の世界が交錯する不思議な話だった。奇妙な時の流れはいったい何を意味するのか?漆黒の王子の正体は?最後まで分からないことばかりだが、ひとつ言えるのは、人の悪意は悲劇の連鎖を生むということだ。全てが終わったあと、何が残るのか?それは虚しさでしかない。
内容に深みがあり構成もよかったが、タイトルが「漆黒の王子」なのにその王子のインパクトが弱い。王子の抱える心の闇の部分をもっと描いてもよかったのではないだろうか。また、ホームレスを惹きつける王子の魅力も読み手には伝わってこない。明かされることのない謎もあり、少々不満が残る作品だった。

ゆこりん : 17:05 | 作者別・・は他