« 木練柿(あさのあつこ) | メイン | 神様のカルテ(夏川草介) »

2010年3月 8日

黒白(池波正太郎)


波切道場の主である波切八郎は、門人水野新吾が起こした不始末が原因で姿を隠さなければならない状況になってしまった。彼は、秋山小兵衛と真剣による勝負を約束していたが、それも叶わなくなった。一方、堕ちていく波切とは対照的に、秋山小兵衛は辻平右衛門の道場をやめ、自分自身の道場を開き充実した日々を送っていた。そんなふたりの接点は、思いがけないところにあった・・・。若き日の秋山小兵衛を描いた、剣客商売シリーズ番外編。

人は、思いも寄らぬことから堕ちていくことがある。波切八郎の人生はまさにそのようなものだった。水野新吾が原因で、彼の人生はどんどん、坂道転がるように落ちていく。純粋であればあるほど、汚れ方は早かった。一方、秋山小兵衛は、おのれの信念を貫き順調に人生を歩んでいる。そんなふたりにはこの先接点がないように思われたのだが、作者の巧みな描写がしだいに両者を近づけていく。波切が置かれている状況や彼がすさんでいく様子、波切と関わりのある人たち、秋山小兵衛と彼に関わる人たち・・・などなど。どれもが実にていねいに描かれていて、ストーリー展開も巧みだ。読み手を最後までしっかりつかまえて離さない。ここから剣客商売シリーズにつながるのだと思うと、感慨深いものもあった。長いけれど、最後まで飽きずに読める面白い作品だった。

ゆこりん : 17:35 | 作者別・・いけなみしょうたろう