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2009年10月 6日

新妻(池波正太郎)


東海道御油の宿場で秋山大治郎が出会ったのは、一字違いの秋山大次郎だった。藩の公金を盗んだ罪を着せられた大次郎は、幕府の評定所へ出向く途中であった。夫を励ますため大次郎の新妻のとった行動に、大治郎は激しく心を揺さぶられる。表題作「新妻」を含む7編を収録。「剣客商売」シリーズ6。

このシリーズ6で、ようやく大治郎と三冬が夫婦となった。「品川お匙屋敷」の話では、三冬が密貿易に関わる一味に捕らえられてしまう。激しい怒りに身を震わせる大治郎だが、一方では三冬が自分にとってかけがえのない存在だと強く意識する。この事件が無事解決した後、ふたりの婚礼が行なわれた。剣客ファンはほっとしたのではないだろうか。結婚後の三冬の、女性としての微妙な変化もほほえましく面白い。
どの話も人情味があり温もりがある。また、正義とおのれの信念を貫く秋山父子の活躍は胸がすく思いだ。中でも特に印象に残ったのは、「金貸し幸右衛門」と「いのちの畳針」だ。幸右衛門の思いが、秋山小兵衛を通して「いのちの畳針」に登場する植村友乃介へと伝わっていく。そのことが静かな感動となって心にしみてくる。
全体的に、しっとりとした味わいのある作品だった。

ゆこりん : 17:25 | 作者別・・いけなみしょうたろう