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2009年9月19日
冬のオペラ(北村薫)
叔父の会社で働いている姫宮あゆみは、同じビルの中に探偵事務所ができたことを知る。自称名探偵の巫(かんなぎ)弓彦は、仕事がないときはさまざまなアルバイトをしていた。行く先々で彼の姿を見かけ気になっていたあゆみは、ある日思いきって事務所を訪ね、彼の記録者に志願する。巫とあゆみ、ふたりが出会った3つの事件を収録。
あらぬ疑いをかけられた女子大生を救う「三角の水」、蘭の花をめぐる二人の女性を描いた「蘭と韋駄天」、大学構内で起きた殺人事件の謎を解く「冬のオペラ」、この3編どれもが楽しめる話だった。中でも表題作の「冬のオペラ」は心に残る話だった。ふたつめの話に登場した椿雪子が再び登場する。彼女の職場である大学構内で起こった殺人事件は、奇妙で謎に満ちたものだった。巫はひとつひとつ事実を積み重ね、やがて真実にたどりつくのだが、真相と同時にある一人の人間の苦悩をも知ることになる。殺意を抱くほどのひどいできごとがあったのだ。これには同情すべき点もあると思う。だが、巫のひと言が、犯人との間に明確な線を引く。
「わたしは探偵で、あなたは犯人です。」
巫の探偵としての誇りを感じさせる言葉だ。解決した事件の数は限りなく少ないが、巫は心の底から名探偵だった。彼の活躍をもっと読みたいと思う。そして、彼のことをもっと知りたいと思う。作者にぜひ頼みたい。
ゆこりん : 21:35 | 作者別・・きたむらかおる