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2009年6月 4日

おそろし(宮部みゆき)


ある事件がもとで心に深い傷を負ったおちかは、神田で三島屋という袋物屋を営む叔父夫婦のもとで暮らすことになった。心を閉ざし、外出もしないおちかを案じた叔父伊兵衛は、店を訪ねて来る人の話を聞くようにおちかに言う。いろいろな人たちの話を聞き、おちかはしだいに心を開いていくのだが・・・。

恐ろしい・・・。この作品の内容も怖いが、それ以上に人の心が怖い。人を愛しすぎるのも、人を憎みすぎるのも、どちらも同じ悲劇が待っているところは、背筋がぞくっとする。5編の話が収録されているが、一番印象的だったのは「曼珠沙華」だ。愛と憎しみが表裏一体だということを鮮やかに描き出している。そして、人の心の微妙な感情の揺れ動きの描写も素晴らしい。一番怖く、そして一番切なさを感じた。松田家の主人とその兄との関係も哀れだった。ほかの話も面白かった。全体的にいい流れの作品だと思うが、結末に少々不満を感じた。全てを収束させるように持っていくのは、無理があると思うのだが・・・。

ゆこりん : 20:07 | 作者別・・みやべみゆき