« 本所しぐれ町物語(藤沢周平) | メイン | パラドックス13(東野圭吾) »

2009年4月25日

オリンピックの身代金(奥田英朗)


日本は、「東京オリンピック」を開催することにより、完全に戦争の痛手から立ち直った姿を世界各国に示そうとしていた。誰もがオリンピックに夢や希望を抱いているかに見えた。だが、警察を狙う爆破事件が発生する。オリンピックを妨害しようとする事件だったが、このことは日本国民に知られることはなかった・・・。一人の若者の生き様を衝撃的に描いた作品。

高度経済成長期の日本。「東京オリンピック」という華やかな祭典の陰には、いまだに貧困にあえぐ人たちがたくさんいた。日の当たるところにいる者とそうでない者との激しい格差には言葉もない。そのまま何事もなければ、東大生である島崎国男も日の当たる道を歩き続けることができただろう。だが、彼に仕送りを続けていた兄の死が、彼を変えてしまう。「自分を日の当たる場所に出すために、どれだけ家族が犠牲を払っていたのか!」そう思う島崎は、兄の死を乗り越えることができなかった。そして、兄と同じ境遇に自分の身を置いたとき、日本の国が抱える矛盾に気づいてしまった。「日本の国の豊かさは、ごく一部の人間たちのものだ・・・。」
彼の境遇には同情すべきところもある。たった一人で、「あったこと」を「なかったこと」にしてしまうような恐ろしい国家権力に挑む姿は、「孤高」という言葉にふさわしいように見える。だが、実際にやっていることは狂気の沙汰としか思えない。彼の行動には、理解も共感もできなかった。
長すぎる気もするが、いろいろなテーマを含んだ読み応えのある作品だった。読後も不思議な余韻が残った。

ゆこりん : 14:27 | コメント (2) | 作者別・・おくだひでお


コメント

「始祖鳥記」の記事にコメントさせて
もらったミシェルでございます。
かなり前の記事にいきなりというのも
アレだったんで、最新記事にもコメ
をってことで(笑)。

えっと、奥田さんの本は数冊は読んで
います。
というか伊良部シリーズ中心で読んで
るだけ・・という感じでもありますが。

この本、伊良部シリーズとは全然違っ
て本格的な社会派小説って印象ですね。
ユーモア場面は一切なしという感じ
ですか。
それでも奥田さんなら面白くかける
だろうなとは想像できます。
「オリンピックの身代金」、覚えて
おきたい一本ですね。
(石原都知事からすると、今のタイミ
ングで出すんじゃないとクレームつけ
たい本でしょうか? ははは)

投稿者 ミシェル・デマルケ : 2009年4月30日 09:19

> ミシェル・デマルケさん
こんにちは~。
確かに伊良部シリーズだけ読んでいると
奥田さんの印象は違ったものになりますね(^^;
私が最初に読んだのはデビュー作の「ウランバーナの森」
でした。
これを読んだあとに伊良部シリーズを読んだ時は
面食らいました。ギャップがすごい(*^^)
逆に言えば、ユーモラスなものからシリアスなものまで
いろいろ書ける才能豊かな人ということですね(^◇^)
伊良部シリーズだけではなく、ほかの作品もぜひ
読んでほしいと思います(#^_^#)

投稿者 ゆこりん : 2009年4月30日 16:40