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2009年4月20日

飢餓海峡(水上勉)


昭和22年9月20日、青函連絡船層雲丸が遭難!多数の犠牲者が出たが、その中に数の合わない身元不明の遺体が2体あった。同じ日の朝、函館から120キロ離れた小さな町岩幌町で火事が起こっていた。町全体の3分の2を焼き尽くしたこの火事の原因は、陰惨な事件だった。この二つのできごとには、ある男が深く関わっていたのだが・・・。

実際に起こったできごと二つを巧妙に結びつけ、壮大なドラマに仕上げた作品だ。貧しさが、ひとりの男の人生をゆがんだものに変えていく。貧困の描写には考えさせられるものがあった。そういう境遇の中で育った人間に、ほかにいったいどんな選択肢があると言うのか・・・。出口のない暗闇の中でもがき苦しむ樽見が憐れでならない。だが、樽見のやったことは絶対に許されることではないのだ。罪から逃れようとする樽見。その男を「恩人」と慕う杉戸八重。そして事件を執拗に追い続ける函館署の弓坂と東舞鶴署の味村。追いつめられる者と追いつめる者との攻防の描写が見事だった。長編でテーマも重いが、読み応えのある素晴らしい人間ドラマの作品だと思う。

ゆこりん : 17:16 | 作者別・・み他