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2009年3月 9日

きのうの世界(恩田陸)


1年前に失踪した男が、とある町で死体となって発見された。いったい彼は、この1年の間何をしていたのか?塔と水路の町に隠された秘密とは?

主軸は「ひとりの男の死」なのだが、章ごとに語る人物が違う。そのひとつひとつを組み合わせると、作品全体の流れがあざやかに浮かび上がっていく。そういうストーリー展開が絶妙で、どんどん作品の中に引きずり込まれるような感じで読んでいった。死体となって発見された男。その男が調べていたこととは?一見ミステリーのようだ。だが、ミステリーとして読むと、疑問や不満を感じる人が少なからずいるのではないだろうか。
結末にも意外性はない。いや、この作品全体に「意外性」などというものは存在しないのだ。だが、意外性がないのに意外性があるように思わせるところに作者のすごさがある。この作品は、「不思議な恩田ワールドをじっくりと味わう。」そういう純粋な気持ちで読むほうが楽しめると思う。私個人としては、とても好きな作品だった。

ゆこりん : 15:26 | 作者別・・おんだりく