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2008年10月25日
蔵(宮尾登美子)
流産、死産、夭折を繰り返したが、烈と名づけられた9人目に生まれた女の子は、丈夫にすくすくと育っていった。だが、意造、賀穂夫婦の喜びもつかの間、烈には失明という過酷な運命が待ち受けていた。造り酒屋を舞台に描かれた、感動の人間ドラマ。
失明という過酷な運命。最初、烈は一生ひっそり過ごそうと考えていた。だが、祖母の死、母の死、父の再婚、父の病など、次々に襲いかかる荒波にもまれるうちに、烈はしだいに強くなっていく。もともと気性の激しい性格で周りの人を悩ませることもあったが、その激しさが今度は逆に周りの人を救うことになる。男だから女だから、子供だから大人だから・・・そういうこと全てを超越して、烈は一人の人間として己の人生を壮絶に生き抜いていく。その姿には深い感銘を受けた。本文のあとの作者付記で述べられていたその後の烈の人生も決して平坦ではなかったが、信念を貫抜こうという姿勢は最後まで変わることがなかった。人はこんなにも強く生きていけるのだ。読む人すべてに生きる勇気を与えてくれる、読み応えのある面白い作品だった。