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2008年6月25日

闇の花道(浅田次郎)


一人の老人が雑居房にやってきた。その老人は六尺四方にしか聞こえないという不思議な語り口・・・「闇がたり」で、若かしり頃のできごとを語り始めた。聞く者全てをとりこにするその話とは?「天切り松 闇がたり」シリーズ1。

夜盗の声音「闇がたり」で語られるのは、不思議な老人松蔵のはるか昔の物語。母を病気で失った後、父により姉は遊郭に売られ、おのれ自身は盗賊の親分に弟子入りさせられた。だがこの盗人集団には、義理も人情もある。ぴしっと1本筋も通っている。その潔い生き方には、ほれぼれとさせらる。安吉、おこん、栄治、寅弥、常次郎、どの人物も魅力的だ。そして人の心の痛みが分かる情け深い人たちだ。松蔵と彼らの間にある信頼関係は、読んでいてほのぼのとしたものを感じさせる。彼らは、松蔵の姉のためにも一肌脱ぐ。ラストの、松蔵に背負われた姉の描写は、胸に迫るものがあった。浅田次郎らしい作品だと思う。

ゆこりん : 18:24 | 作者別・・あさだじろう