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2008年3月21日

薬指の標本(小川洋子)


事故で薬指が欠けてしまったことが原因で職場を辞めた「わたし」が次に見つけた働き先は、標本作りをするところだった。ここを訪れるさまざまな人たちは皆、思い出の品々を持ち込んでくるのだが・・・。表題作を含む2編を収録。

どんなものでも標本にしてしまう弟子丸氏。そこで働く「わたし」は、いつの間にか弟子丸氏に愛情を感じてしまう。だが、彼の心が分からない。自分を見てほしい。振り向かせたい。その思いが「標本」と結びついていく・・・。その過程は、読んでいてぞくぞくする。表題作「薬指の標本」は、不思議な世界をのぞいているような作品だった。もうひとつの「六角形の小部屋」も独特の雰囲気だった。懺悔室のようだが、そこは単なる「語り部屋」なのだ。だが、そのひと言では片付けられないものがその部屋にはある。狭い部屋の中には別の世界が際限なく広がっているようだ。ラストに感じる喪失感が心に残る。どちらも作者の感性が光る作品だった。

ゆこりん : 15:03 | 作者別・・おがわようこ