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2007年7月 4日

翳りゆく夏(赤井三尋)


東西新聞社が採用を内定した朝倉比呂子は、20年前に起きた誘拐事件の犯人の娘だった。週刊誌がスクープ記事として取り上げたことをきっかけに、東西新聞社では事件の再調査を独自に開始した。そこから浮かび上がってきた事実とは?江戸川乱歩賞受賞作品。

逃亡中、犯人は共犯の女性と一緒に事故死。誘拐された赤ん坊の行方も分からない。そんな20年前の事件を追う東西新聞社の梶。一つ一つのできごとを丹念に洗い出していったとき、今まで見えなかった真実が見えてきた。さまざまなできごとが最後にうまくはまっていくように、とてもよく練られ、考えられた作品だと思う。登場人物の心理状態もていねいに描かれている。何気ない言葉に隠された真実への伏線も見事。長い作品だったが、一気に読ませる力を持っている。この誘拐事件は、いろいろな人間の思惑が複雑に絡み合って生まれた事件だと思う。ミステリーとしての面白さと同時に、人間ドラマとしての切なさも合わせ持った、読み応えのある作品だった。

ゆこりん : 17:39 | 作者別・・あ他