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2007年4月20日

異人たちとの夏(山田太一)


妻と別れたあと、寂しい心のすき間に入り込んできたものは?かつて両親と暮らしていたなつかしい浅草で男が出会ったのは、すでに自分より年下になってしまった両親だった。この世のものではないと感じながら、男は彼らに近づくのをやめることができなかった。

父は39歳、母は35歳でこの世を去った。36年前の突然の別れ。今目の前にいる2人に近づくことがどんなに危険なことか、分かっていても自分を止められない。そこにいるのは紛れもなく、自分を愛してくれた人たちだから。会うことをやめなければと思いながら、会わずにはいられない男の心が痛いほどよく分かる。きっと、ずっと抱えてきた心のすき間を埋めたかったのだ。もう一度、親の愛情を体全体で受け止めたかったのだ。いつかは別れなければならないのに。そのことがとても切ない。男と恋人ケイとの関係も、ホロリとさせられるものがあった。最後はちょっと怖かったが・・・。

ゆこりん : 21:02 | 作者別・・や他