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2005年4月12日

砦なき者(野沢尚)


売春の元締めとして報道された女子高生が全裸で自殺!恋人だと名乗る八尋樹一郎は、彼女を自殺に追い込んだのは首都テレビだと激しく抗議する。そのことがきっかけになり彼はたびたびテレビに登場し、そして若者のカリスマ的存在になっていく。彼によって仕掛けられた罠に落ちたテレビマンたちは、彼の正体を暴こうとするが・・・。

テレビというメディアが、八尋のような邪悪な怪物を作り出し育ててしまった。彼はメディアを利用し、自分自身をカリスマ的存在にしてしまう。彼を敬い慕う若者たち。それは一種の洗脳のようで、読み手をぞっとさせる。テレビが映し出すのはあくまでも表面的なものだ。内部にどんなものを抱えていようとも決してさらすことは出来ない。視聴者はある一面だけを見て、それがすべてと思い込んでしまう。悪意があれば、テレビを通して視聴者をだますことさえ出来る。架空の話だと思いながらも、読んでいて恐怖を感じる。こういうことが現実に起こりうる可能性があると、心のどこかで思っているからに違いない。メディアの持つ危険性を見事に描ききった作品だと思う。

ゆこりん : 12:14 | 作者別・・のざわひさし