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2005年4月 4日

むこうだんばら亭(乙川優三郎)


「いなさ屋」。そこにはいろいろな人生を抱えた人たちが集まってきた。「いなさ屋」の主人孝助やそこで働くたかにも、人には決して言えないつらい思いがあった。そんな人たちがそれでも必死に生きようとする姿を、しっとりと描いた作品。

人の一生は、海を漂う小船のようなものかもしれない。風雨にさらされ、波にもまれ、時には海の底に沈みかける。けれど、人は浮き上がらなければならない。どんなことをしてでも生きていかなければならない。悲しいほどの決意が、読む者の心を打つ。話に派手さはない。むしろ暗い話が多い。だが、読んでいて希望を感じることが出来るのは、そこに描かれている人たちがどんな状況になっても決してあきらめない強い気持ちを持っているからだ。心にじんわりとしみてきて、余韻が残る作品だった。

ゆこりん : 15:17 | 作者別・・お他