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2004年9月17日
家族狩り(天童荒太)
第一部・・幻世の祈り
愛というものに疑問を抱く、高校教師の巣藤。理想の家庭を築こうとして、家族の心をばらばらにしてしまった、刑事馬見原。児童虐待に心を痛める氷崎游子。それぞれがそれぞれの心に、家族というものに対する深い思いを抱いていた。ある時巣藤は、登校拒否の息子を抱える隣家の異変に気づき、様子を見に行くが。
第二部・・遭難者の夢
隣家の悲惨な光景が頭から離れない巣藤。彼はひどく酔った夜、若者たちから暴行を受ける。摂食障害に陥り、食べては嘔吐を繰り返す亜衣。幼児虐待を繰り返す親に、相変わらず心を悩ませる游子。そして馬見原は、以前逮捕した油井が刑務所から出てくるのを知る。油井は自分の息子を虐待し、怪我を負わせた男だった。
第三部・・贈られた手
また一つの事件がおきた。巣藤の学校の生徒の家だった。巣藤の心の中に次第に変化が起こる。他人の家庭のため奔走する游子の家庭の状態も、決していいとは言えなかった。亜衣もまた、心の傷をさらに広げていく。馬見原は、冬島母子に執拗に復縁を迫る油井の存在に、心を痛めていた。
第四部・・巡礼者たち
教師を辞めてしまってもなお、亜衣のことを気にかける巣藤。その亜衣はますます自分の殻に閉じこもっていく。保護した少女の父親との間に、わだかまりが生じたままの游子。馬見原に憎悪をつのらせる油井。そんな中馬見原の妻佐和子は、四国の巡礼者の姿を見て、馬見原にある決意を打ち明ける。
第五部・・まだ遠い光
壊れかけていく家族が住む家を訪ねる大野と彼の元妻の山賀。彼らは、重い過去を背負っていた。巣藤と游子は、ある事件をきっかけに心が寄り添っていく。そして、冬島母子、亜衣の未来は?馬見原に対する油井の憎悪が極限に達したとき・・・。それぞれの悩み苦しむ人たちに、救いはあるのか?感動の最終章。
作者にとんでもなく重い荷物を持たされたような感じがする。問いかけても問いかけても、決して正確な答えなど出てはこない。
「家族とは?」
相手をどんなに愛していても、それがうまく伝わらないときもある。声をかけてもらいたくてもかけてもらえず、寂しさに震えるときもある。家族の心がうまくかみ合わないときに、悲劇は起こる。誰もがいつも、誰かから気にかけていてもらいたいと思っている。自分が必要な存在だと思われたいと願っている。家庭が、傷ついた心を癒せる場でなくてはならない。家族が、その人にとってかけがえのない存在でなくてはならない。今こうしている間にも、どこかでこの本に描かれているような悲劇が、起こっているかもしれない。できれば、そういう悲劇が一つでも減るようにと祈りたい。