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2003年9月22日

霧の橋(乙川優三郎)


武士の社会に嫌気がさし、町人になった惣兵衛。しかし、町人の世界でも苦難が待っていた。店を乗っ取られるかもしれないという不安。惣兵衛は店と愛する妻を守るため、立ち上がる。

時代物でありながら、時代物と感じさせない作品だった。そこに描かれていることは、今の時代の出来事となんら変わるところがないように思う。大企業と中小企業との闘い、そして愛する家族を守るため奮闘する男たち。作者はていねに細やかに人の心を描いている。だから読み手は共感を覚えるのかもしれない。夫婦の心のすれ違い。しかし惣兵衛が過去の自分と完全に決別したときに、二人は新たな一歩を踏み出す。霧の橋の向こうに見えたものは妻の姿だけでなく、これから二人で歩む人生だったのではないだろうか。

ゆこりん : 10:16 | 作者別・・お他