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2003年6月24日

シェエラザード(浅田次郎)

シェエラザード〈上〉
昭和20年4月、台湾沖で2300人を乗せた弥勒丸が沈んだ。帝国郵船の大型客船だったその船は、一度も正規のルートを航行することなく、戦争の犠牲となって海の中に消えてしまった。50数年後、一人の謎の老人が現れる。弥勒丸引き揚げに執念を燃やす彼には、今まで誰にも語ることのなかった悲劇の過去があった。

戦争中、米軍の攻撃を受け沈没した弥勒丸。その豪華客船が使われた目的は驚くべきものだった。勝つ見込みのない戦いを続けていた日本。弥勒丸に乗っていた人たちはその犠牲になってしまった。多くの悲劇は、残された人たちの心にも深い傷を与えた。それは何十年経っても決して消えることはなく、彼らを苦しめ続ける。過去と現在が交錯するという形で描かれたこの作品は、読む人に弥勒丸の悲劇をより強烈に印象づける。「その船に乗ってはだめ!」何度もそう叫びたい場面があった。潜水艦隊に包囲され、攻撃・沈没の運命を悟った乗組員たち。彼らの最後まで毅然とした態度は、涙を誘う。「よォそろォー」彼らの声が胸に響いてくるようだ。

ゆこりん : 13:43 | 作者別・・あさだじろう